人間ほどゆっくりと時間をかけた矯正を行うことは理想論ではありますが、ペットで何年ものあいだ矯正器具をつけ苦痛を強いた生活を行うことは現実的ではなく、しかも行うべきではないと思われます。またアンダーショット(下顎が上顎に対して長すぎる。あるいは下顎に対して上顎が短すぎるのいずれか)に対して下顎を切断する、あるいはオーバーショット(下顎に対して上顎が長すぎる。あるいは上顎に対して下顎が短すぎるのいずれか)における上顎切断は行うべきではないでしょう。ペットではそれをチャームポイントと考えることも大切だと思います。ただし歯のズレ程度によるオーバーやアンダーは治癒できる可能性が有ります。この件に関して一番重要な事は、基本的に「奥まっている(下がっている=舌側)歯を外に出すことはわりと容易」「外に出ている(出ている=頬側)にある歯を入れることは大変困難、あるいはペットへの苦痛を伴うということになります。

 当院で最も頻発することは乳歯の自然脱落が起こらなかったことによる問題。乳歯残存による種々の不整咬合です。

 下顎の乳歯犬歯を早期に抜歯しなかったためにおこる症状について考えてみましょう。下記のいずれかあるいはいくつかが同時に生じます。

 ・下顎の成長不足。この問題により、下顎の切歯(前歯)の崩出不足(本数が足りない)
 ・切歯の凹凸
 ・犬歯は上顎の切歯内側に当たった場合には完全な咬合をできない
 ・犬歯が上顎の硬口蓋(肉の部分)に刺さって慢性的潰瘍を起こす。

 矯正はなかなかデジカメのお写真で判断できることが少なく、基本的には一度ご来院いただき判断させていただくことが多くなります。どうしても遠方の方では、フラッシュ撮影にて、明るいところでブレのない写真を各種方向から撮影いただきメールにてご相談ください。

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上顎乳歯犬歯が抜けなかったことによる不整咬合
乳歯犬歯が抜けなかったことにより、永久歯犬歯が前方に移動し(より鼻先の方向)下顎の犬歯により永久歯犬歯が外側に持ち上げられてしまっています。


緑:上顎永久歯犬歯。適正な場所よりも前方かつ外側にある
青:上顎乳歯犬歯。本来は抜けているべきであるが、抜けていないために、永久歯犬歯(緑)を異常な場所に圧迫している。
赤:下顎永久歯犬歯。正常な位置よりも内側かつ前方にずれている。また上顎の永久歯犬歯(緑)を下から押し上げている。


まずは全身麻酔にて乳歯犬歯を抜歯します。


実際移動を予定している犬歯の位置は青い歯で示した場所です。犬歯を矢印で示すように移動させます。


移動中の写真です。


下顎の犬歯が上顎の切歯と犬歯の間に入るようにカバーをします。


前述の写真のコメントです。下顎犬歯カバーにより犬歯を適正な位置に移動させます。


治療終了後の写真です。


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右側上顎上顎犬歯の埋没
右側上顎の犬歯が認められません。レントゲンにて犬歯の確認が行えたために、本例を矯正により正しい位置に矯正することとしました。

左側観です。

本来あるべき犬歯を予想してみました(青色犬歯)

外側切開を行い、犬歯を露出し、矯正器具を設置します。

上記の写真に予想位置を重ね合わせてみます。

前述の矯正法では変化が少なく、かつ頬側(外側)への変化が少ないために、骨移植を行います。犬歯内側に骨を移植し犬歯を移動させます。

犬歯内側に骨を移植し犬歯をより外後方へ牽引します。

矯正終了後、装置を取り外したあとの写真です(2010/6)

再診時。犬歯は動揺なく完全に固定されております(2011/1)

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イ ン ク ラ イ ン プ レ イ ン 犬 歯 矯 正 法
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右側観、左側観ともに下顎の犬歯が上顎に刺さっていることがわかります。インクラインプレインという方法で、この下顎の犬歯の角度を変更してみます。

石膏模型を作成し、噛み合わせた時に、下顎犬歯が外側に自然移動するような矯正器具を作成します。


アクリルだけでは強度不足であるために内側にキルシュナーワイヤーを埋め込みます。


実際に取り付けます。




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矯正器具を取り外しました。下顎犬歯は左右共に、上顎の歯肉に刺さることなく、外側に移動しております。

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ク ロ ス バ イ ト( 交 叉 咬 合) の 矯 正
 クロスバイトとは、前歯の一部は正常なかみ合わせであり、一部は下顎が上顎より前に出ていて(出っ歯)の状態をいいます。つまり上下の歯列のどこかで交叉しているかみ合わせのことをいいます。放置したり、「ひっぱりこ」の遊びをすることで、クロスバイトは悪化し、下顎の前歯が外にでるようになってしまします。今回はクロスバイトの矯正としてアクリル板およびリンガルボタンを使用した方法をご説明いたします。
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初診時での写真です。下顎の前歯が上顎の前歯より飛び出ています。


切歯の一番右端を斜め後方(捻りながら喉側)に牽引し、隣の切歯が喉側に牽引されるスペースを作ります。その際、矯正モデルにより、上顎の切歯が移動されないよう十分に注意した模型の作製および設置を心がけます。


印象作成後、アクリルにて矯正器具を設置いたしました。この場合は、犬歯をアンカーとして使用し、前歯が後ろに牽引される際、他の歯が動かないようにします。


力の加減、大きさを間違えますと、歯が弱くなったり、上顎の前歯全体に支障を来し、歯の形態が崩れます。


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矯正2ヶ月。下顎の前歯が正常の位置に戻っております。

矯正の状態が動画にて確認できます。

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ア ン ダ ー シ ョ ッ ト の 矯 正

 中等度から高度のアンダーショットに対して上顎および下顎の同時矯正を行った一例です。下顎のアンダーに対しては歯の角度を内側(のど側)に上顎に対しては外側(唇側)に歯を捻転させます。この手法は海外のveterinary dentistryの教科書からヒントを得た方法です。ただ海外では中型犬以上が多いためにこのような方法が常に選択肢に入って参りますが、日本では小型犬が多いためにこの方法は使用できないと思われます。もし小型犬でこの方法を用いてしまうと、おそらく矯正終了時には歯に動揺が認められるか、もしそのような事態にはならないとしても歯の寿命を著しく短くする可能性が高いと判断します。以上のことからこのような方法は中型犬以上に用いることが適切と思われます

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腕時計のSpring Barを使用した矯正法

 皆さんが腕時計のバンドの部分をご覧になるとSpring Barとよばれるバネを伴ったネジで各部品がとめられていることがわかります。このSpring Barによって上顎の切歯をより外側に出す方法を考案いたしました。
*獣医師のかたがこの方法を行う際、当院に必ず許可をとってください。

症例の写真です。下顎の切歯が大きく手前にでています。このような場合、上顎が引っ込んでいるのか、それとも下顎が飛び出しすぎなのかを確認することが大切です。
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このような角度で見ると上顎が引っ込んでいることがわかります。

今回使用するSpring Barを見てみましょう。

下記のように腕時計にあわせていろいろなサイズがあります。また指で押すとこのように赤丸の部分がスプリングになっております。


印象を作成し、矯正器具を模型に設置してみます。



 設置後の違和感も少なめです。

3ヶ月後の矯正器具を外した状態です。自然なかみ合わせに戻っています。


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 本来は極力行いたくない手術であり、ドッグトレーナー、クロルプラミン(問題行動是正薬)、行動療法の併用により解決していただきたい問題です。しかしながら、「特発性攻撃行動」という行動が知られております。通常「う〜」と言ったり、いやな目つきをすることで、ヒト側が「これは危ないな、噛まれそうだ」と感じるわけですが、「特発性攻撃行動」とは、なんの前触れもなしに、突然、近くのヒトの手を噛んでしまう行動があります。種々の努力をされて、もうどうしようもないという場合には犬歯切断も解決法の一つとして考えなくてはいけない事もあります。犬歯切断とは、犬歯を短く切断することですが、かなり短くしなければ、今後の事故防止にはなりません。通常、犬歯切断を行うと神経部位から大量の出血が生じます。つまり、「人為的露髄」を作成するわけです。放置すれば、必ず虫歯になります。ということから、犬歯切断とは、「人為的に露髄をおこして、虫歯になるまえに虫歯の治療をしてしまう。」という事になります。犬歯抜歯も一つの方法でありますが、費用の面、顎骨が弱くなることなど、デメリットの方が多いために、通常は選択されません。

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